先天性風疹症候群から赤ちゃんを守れ!
~私たち大人にできること~

風疹の感染拡大が止まりません。それにつれて、生まれながらに障がいを持つ「先天性風疹症候群(CRS)」の赤ちゃんも急増!これ以上の拡大を防ぐために、今、私たちにできることは――。国立成育医療研究センター・周産期センター産科医長の久保隆彦先生に聞きました。

急増する先天性風疹症候群の赤ちゃん

今年に入って、風疹の感染者数は5964人(5月8日現在)。去年の同時期の約40倍の勢いです。かつては子どもに多い病気だったのに、今は20代・30代・40代の子育て世代の男性を中心に広がっています。

「風疹は3日ばしかと呼ばれ、軽く見られがちですが、免疫のない妊婦がかかると胎児にも移行して高い確率で先天性風疹症候群(CRS)を発症します。それが今、一番の問題なのです」と久保隆彦先生。

風疹流行の拡大につれ、先天性風疹症候群の赤ちゃんも、去年秋から今年4月までの約半年の間に、すでに10人。ここ7、8年は、1年間にゼロか、あっても1人か2人にとどまっていただけに、危機感が募っているのです。

先天性風疹症候群は、妊娠中のどの時期に感染したかによって、障がいの重さが違いますが、生まれつき心臓に穴が開いていたり、難聴があったり、白内障で視力の発達が妨げられたりします。糖尿病や発育の遅れ、眼球の小さい小眼球症で全盲になることもあります。

先天性風疹症候群の子どもを持つ母親たちからは、後悔や苦悩の声が聞こえてきます。

「ワクチンを打っていれば、こんなことにならなかった…」
「自分がかかると思っていなかった…」
「いったいどこで感染したんだろう…」
「もっと知識を持っていれば…」

また、風疹検査で陽性と出た妊婦の中には、赤ちゃんへの影響を恐れて生むことを断念する人もいます。羊水検査の結果が陽性でも、実際に赤ちゃんが先天性風疹症候群(CRS)である確率は50%。それよりも低い、というデータもあります。中絶した胎児が本当に感染して障がいがあったかどうかを調べる術はありません。

妊婦で抗体がない(または低い)人は、徹底的に自己防衛すべし!

「これから赤ちゃんを生みたいという人は、妊娠前にワクチンを打ってください」(久保先生)。接種後は2ヶ月間の避妊が必要ですが、事前に手を打っておけば、これ以上の安心はありません。

妊娠初期には、どの病院でも風疹検査をすることになっています。抗体が十分あると言われたら安心。でも抗体がないと言われたら……。そうとわかっても、妊娠中はワクチンを打てません。風疹の予防接種は弱毒生ワクチンなので、理論上胎児への移行が否定できないからです。(でも、接種後に妊娠が判明したり、避妊に失敗したとしても、赤ちゃんをあきらめる必要はありません。「ワクチン接種で赤ちゃんに先天性風疹症候群が発生したという報告はない」からです)。

妊娠中に抗体がない、または少ないとわかったら、徹底した自衛策をとるしかありません!方法はインフルエンザと同じ。「手洗い」「うがい」「マスク」励行、「人ごみ」を避けます。

「障がいは、妊娠初期ほど重く出ます。妊娠12週まではとくに、可能な限り、この自衛策をとってください。人ごみも避けてください。飛沫感染ですのでマスクを常用しましょう。妊娠20週以降に感染しても大きな障がいはほぼないとされていますが、念のため、妊娠24週頃までは自衛策を続けてください」(久保先生)

そして、産後にワクチン。産後の1ヶ月健診や産後入院中に必ず打ちましょう!

もしも妊娠中に風疹感染が疑われたら、さらなる検査も必要です。リスクの度合いは様々なので、医師にとっても判断はとても難しい。そこで主治医は各地域に設けられた二次施設の病院で相談することができます。妊婦自身も、希望すればカウンセリングや胎児診断を受けることができます。主治医に相談しましょう。

風疹感染が疑われたときの相談窓口(二次施設)

北海道 北海道大学病院産科
東北 東北公済病院産科・周産期センター
宮城県立こども病院産科
関東 三井記念病院産婦人科
帝京平成看護短期大学
横浜市立大学付属病院産婦人科
国立成育医療研究センター周産期センター産科
国立病院機構横浜医療センター産婦人科
東海 名古屋市立大学病院産婦人科
北陸 石川県立中央病院産婦人科
近畿 国立循環器研究センター病院周産期・婦人科
大阪府立母子保健総合医療センター産科
中国 川崎医科大学付属病院産婦人科
四国 国立病院機構香川小児病院産婦人科
九州 宮崎大学医学部付属病院産科婦人科
九州大学病院産婦人科

20代、30代、40代は、男も女もワクチンを打つべし!

しかし、妊婦の自衛策に頼るだけでは不十分。風疹の流行も、先天性風疹症候群の赤ちゃんも止められません。

風疹は、感染から発症するまでの、自覚症状のない潜伏期間が10日~2週間程度あります。感染を知らずに職場に出て、周りにうつしてしまう、というわけです。職場には妊娠している女性も、妊婦の夫もいます。先天性風疹症候群の感染源を調べていくと、自分や夫の同僚・上司だったということがよくあるのです。

「自分が先天性風疹症候群の感染源だった、というようなことにならないためにも、ぜひ、20~40代は男女ともワクチンを打って欲しいのです」(久保先生)

この年代は、妊娠を考えている・考えていないにかかわらず、また結婚している・していないにかかわらず、「打つべき」。というのも、この年代の人たちは、ワクチン行政の狭間にあって、風疹抗体を持っていない人がとても多いからです。

現在の予防接種制度では、MRワクチン(麻疹と風疹の混合)を、1歳で1回、小学校入学前に追加でもう1回打って、免疫を強固にしています。だから、今の子どもたちは感染を免れているのです。

今、風疹にかかっているのは、約8割が20代~40代の男性たち。ワクチン行政に翻弄された人たちなのです。

ワクチン助成制度を活用しよう

昔、風疹にかかったとはっきりとした証拠がある人は接種の必要はありませんが、「あいまいな場合は打ってほしい」と久保先生。子どものころ風疹になったからだいじょうぶ、という人でも、じつはそう思いこんでいただけで別の病気だった、ということがよくあるといいます。

「すでに、風疹の抗体を持った人が受けても、全く問題ありません。年数の経過と共に抗体が弱まっていることもあるので、抗体をより強くする効果が期待できます」(久保先生)

接種するワクチンは、風疹単体よりも、「風疹と麻疹の混合ワクチン(MR)」がお勧め。20代~40代の男女には麻疹抗体がない人も多いので、同時に免疫をつけることができます。

費用は、予防接種を受ける医療機関によって異なりますが、混合のMRワクチンで10000円、風疹ワクチン単体では5000円程度。妊娠を希望している女性や妊婦の夫に対して費用の助成や負担をしてくれる自治体も出てきました。条件なしに広く20代~40代の男女に補助を出しているところもあります。また、社員のワクチン費用を補助したり、社内で集団接種をしている企業もあるようです。

補助を受けるには事前の申請が必要なので、自治体のホームページ等でぜひ確認してください。

「風疹は、80~85%の人が抗体を持っていればその流行を防げるといわれています。みんなで予防接種を受けて、流行をストップさせましょう。そして先天性風疹症候群から赤ちゃんを守りましょう!」(久保先生)

【参考サイト】

2013年5月30日更新

久保隆彦(くぼ・たかひこ)先生

プロフィール

久保隆彦(くぼ・たかひこ)先生

国立成育医療研究センター 周産期センター 産科医長/医学博士/日本周産期・新生児医学会 副理事長

岡山大学卒業後、聖隷浜松病院未熟児センター新生児科研修医を経て、高知医科大学産科婦人科教室、NICU責任者、周産母子センター副部長、助教授などを務める。その後は、国立大蔵病院産科医長、国立成育医療センター周産期診療部産科医長を経て、現職。 専門分野は、周産期医学、胎児新生児医学、母子感染、妊娠・授乳と薬など。 確かな技術と的確なアドバイス、チャーミングな笑顔で妊婦や胎児、赤ちゃん、お母さんに優しく寄り添う人気のドクター。

国立成育療研究センター
日本周産期・新生児医学会

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