それってホント?妊娠・育児の“常識”を再検証!
妊娠12週までの流産は運命 安静も薬も効かない!

妊娠12週までの流産を防ぐためにできることは、何も無い…張り止め薬や止血剤はもちろん、安静でさえも、無意味だった!? 日本医科大学多摩永山センター・中井章人先生に聞きました!

少量の出血・軽い痛みなら、緊急の受診は不要

12週までの流産を防ぐ治療法はない――それなら、出血があっても急いで受診する必要はないのでしょうか。

「そうです。妊娠12週までに少量の出血や軽い腹痛があっても、夜間や休日など診療時間外に受診する必要はありません。次の健診日まで待つか、不安な場合は、翌日の診療時間内に受診してください。ただし、事前に産婦人科を受診していて、胎嚢が子宮の中にあることを確認している(子宮外妊娠ではない)というのが条件です」(中井章人先生、以下同)

ここで言う“少量の出血、軽い腹痛”は、「月経の1番多い日よりも少ない量、痛み」が目安。もし生理よりも多い出血や強い腹痛があったら、予定していた健診の前でも、受診したほうがいいそうです。この場合、すでに流産している可能性があるので検査をして必要な処置を行う、と中井先生。

でも、出血したら、赤ちゃんが無事なのか心配で、いても立ってもいられない気持ちになります。流産の不安を抱えながら過ごすのは、辛いものがありそうです。

「たしかに、そうですね。でも、出血が流産のサインとは限りません。妊娠した人のうち約30%は、妊娠8週頃までに少量の出血を経験します。流産した人も30%、流産しなかった人も30%の確率で出血するのです」

「出血すると、医師は便宜上「切迫流産」という診断名をつけることがあります。しかし、それは必ずしも流産が切迫しているという意味ではありません。切迫流産は、流産につながるものもあれば、流産とは関係ない場合もあるのです。結果がどちらになるかは、医師でも予測できないこと。そして、どちらにしても、薬や安静によって治療できるものではないのです」

12週までの少量の出血は、あわてず、心配しすぎず、たとえ切迫流産と診断されても、運命に身を任せる気持ちでいたほうがいい――。流産してしまっても、それは受診が遅れたせいでもなく、ハードワークや動き回ったせいでもない。自分を責める必要はどこにもないんですね。

12週頃までは“結果待ち”と心得て

そもそも、産婦人科の医療がここまで普及していない時代には、流産の自覚がない人も多かったようです。生理が遅れてる……やっと来た!と思ったら、「いつもより重かった」という感じ。

日本に産婦人科の超音波検査が普及したのは約30年前、妊娠検査薬が薬局で販売されるようになったのが約20年前。そのおかげで、妊娠5、6週(月経が遅れて1~2週)という早い段階で妊娠がわかるようになり、子宮外妊娠など命にかかわる病気を早く診断できるようになりました。
でもその代わりに、ごく初期の流産もわかるようになり、辛い思いをする人が増えている、とも言えるのです。

流産の頻度は、全妊娠の15%にのぼります。6~7人に1人が流産する計算です。しかも、このうち9割は12週までに起きる「早期流産」。安静も薬も効果のない運命――。

「ですから、治療法のない妊娠12週までは『妊娠したかどうかの結果待ちの期間』と捉えてもらったほうがいいのです。合理的で冷たく聞こえるかもしれません。でも、このことを伝えておかないと、みなさん、妊娠が継続するのが当たり前、と思ってしまう。結果、ごく初期に流産してしまったときに、大きなショックを受けることになるのです」(中井章人先生、以下同)

現実の流産率の高さや、12週までの流産を防ぐ方法がないことを知れば、むやみに自分を責めたり、悲嘆に暮れたり、医師の対応を恨んだり……といったことも少なくなるでしょう。

「とはいえ、人間は感情的な生き物だし、文化的な背景もあるものです。たとえば、欧米では、発熱した子どもの熱を下げるために、冷水につけたりします。わきの下やそけい部に氷を当てるのも有効です。でも、日本人なら、熱のある子を冷水につけるなんて抵抗があるでしょう?熱が出たらあたたかい布団をかけてひたいに氷を当てたいなあって、ぼくだって、そう思ってしまいますから。すべてを合理的に割り切ることは、できないものですよね」

妊娠がわかったら「おめでとう!無理をしないでね」って、言われたい。流産したら、どんなに初期の“自然淘汰”と言われるものでも、悲しいものは悲しい――。それもまた、真実です。

:絨毛膜下血腫や母体の合併症、感染症、不育症などは、12週未満でも治療や安静が必要な場合があるので、かかりつけの主治医の指示に従ってください。また、12週以降の切迫流産は治療法があるので、すみやかに受診しましょう。

妊娠体調チェック おなかの赤ちゃんだいじょうぶ?

2013年9月2日更新

久保隆彦(くぼ・たかひこ)先生

プロフィール

中井章人(なかい・あきひと)先生

日本医科大学教授/日本産科産婦人科学会専門医/日本医科大学多摩永山病院 副院長および女性診療科・産科部長

日本医科大学大学院卒業後、スウェーデン王立ルンド大学への留学を経て、現職。
大学病院と地域の診療所が密に連係する「産科セミ・オープンシステム」をいちはやく導入。産科医の育成や就労環境の改善にあたるなど、周産期医療体制の整備に力を入れている。著書に、『新産婦人科学』(日本医事新報社)、『周産期看護マニュアル』(東京医学社)など。
冷静でスマートな物腰の裏に秘められた、熱いハートが魅力!頼りがいのあるドクター。

日本医科大学多摩永山病院 女性診療科・産科

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